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春の足音が、聞こえ出した2月末…2冊の本は、予定通り、発売された。
著者が、文芸賞の吉水千秋となれば、話題になるのは、あたりまえだ。
その上、業界指折りの2社が、組んでの同日出版。
更に、共同の企画となれば、尚更だ。
PULL PULL PULL…
「はい、オフィスAYA、速水です。
…あっ、お疲れ様です。
はい…サイン会ですか。
最低2日。…ああ、両社、1日ずつってことですね。
…わかりました。打ち合わせは、あさって、午後1時に、丸岡の1階ロビーに、集合ですね。
では、また。」
いきなり、サイン会か…。
予約が、セットで10万ちょい、単本で3万と2万7000…。
発売前に、重版決まったし…幸先いいな。
「千秋、仕事の話。ちょっとこいよ。」
仕事部屋から、ぴょこっ、と、千秋が顔を出す。
「…なあに?」
「うん、今、丸岡の杉山さんから、電話でさ、サイン会やるって。」
「…えっ!…サイン会…」
「なんだよ…すげぇ、不満顔だよな。」
「…もう、受けちゃったの?サイン会…。」
「当たり前だろう。なんで、断る理由がある。
促販の営業の奴らが、どんだけ頑張ってると思ってんだよ…。
書いたら、終わりじゃないのは、よく知ってるだろうが…何年目だ?」
「だってぇ…。」
「我が儘、言わないの!
あさっての昼、丸岡で、打ち合わせ。サイン会は、最低2日の予定だ。以上。
心してかかれ!」
千秋は、ブスッとして、拗ねてるが、これだけは、譲れない。
「…千秋、お前なぁ、人前で、どうこうするって仕事、苦手なのは、十分知ってるけどな…。
これまでに、サイン会、俺が山河いる時に、一緒にやった、あれ、1回だけなんだぞ。
はっきりいってな、これだけ、本が売れてんのに、それだけって、少な過ぎる。
山河は、部長のおかげで、俺は、自由にさせてもらってたからな、千秋が、嫌だっていえば、それですんでたけど…今は、もう無理。俺は、部外者だからな。
他社なんて、断る理由ないし、断れないだろう。
ましてや、丸岡だぞ…理由、言わなくてもわかるよな?」
千秋に反論の余地は、これっぽっちも、なかった…。
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