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「こんにちわ♪」
「お疲れ様です。」
若々しい声が、ふたつ事務所に響いた。
「ん?…今日は、バイトの日じゃないだろう?」
「今日は、郁美の入学式だったんですよ。
速水さんと千秋さんに、報告したいって。」
「…なるほど、それで、二人とも、スーツな訳な。
入学、おめでとう。大学生活、頑張れよ。」
「はい、ありがとうございます。速水さん。」
速水と郁美が話している間、キョロキョロと事務所の中を見ていた和樹が、千秋の姿がないのに、気付く。
「速水さん、千秋さんは?姿見えないけど。仕事部屋なの?」
「いや…。上で寝てる。」
「どこか、具合悪いんですか?」
「…そうじゃないんだ。なんだ、その…。」
珍しく、速水の歯切れが悪い…妙に、照れている。
「速水さん、なんなんですか?…僕ら、すごく心配なんですけど…。」
ちょっと、怒ったふりで、和樹が、問うと。
「…いやな、なんだ…その…世間でいう“つわり”ってやつだ!」
速水の答えに、和樹は、一瞬、何の事か、わからなかったみたいだが、流石、郁美は、女だ。
「…千秋さん、赤ちゃんできたんですか?」
「えっ!…郁美何を言ってんの?」
速水と郁美の表情から、和樹も、やっと悟り、怖ず怖ずと聞いてみる。
「…そうなんですか?速水さん。」
「うん、まあな。」
「いつわかったんですか?いつ産まれるんですか?」
「…和樹、そう矢継ぎ早に、質問するなよ。
先週、病院行ってきたばっかりなんだから…。
産まれんのは、9月の終わりだって。
…そしたら、俺、親父になるんだよな。」
ものすごく嬉しそうな顔を、速水がしたので、和樹も郁美も、つられて笑顔になる。
「何かお手伝いできること、あったらします。私。」
「…千秋に聞いてやって。
それに、郁美がいたら、ちょっとは、気が紛れるだろうし。」
「僕は?何すれば?」
「俺の相手じゃ、不服かな?」
「いえ!、滅相もありません。お相手します。」
結局、和樹は、バイトの日でもないのに、仕事を手伝う事に、なってしまった。
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