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――その日は、やけに空気がざわめいていたことだけを覚えている。
泣く子も眠る丑三つ時――奥州の領地に属する畑の片隅で一人、息を荒くしうずくまる者がいた。
簡素な着流し姿にも関わらず、質素な雰囲気はどこにも見当たらない。
畑などという場所が、恐らく五本指に入る程に似合わないと思われる人物が、そこにいた。
「shit…っ!………は、っはぁ…ぁ………く、そ…!」
奥州の王、独眼竜伊達政宗。
若くして奥州を統べ、その当主となった獰猛なる竜の化身。
先の戦の関ヶ原で、戦国最大の宿敵である甲斐の真田幸村と激戦を繰り広げたばかりのその身を、異常な程に震わせながら。
何かに耐えるように、かの者はそこに居た。
「ち、くしょ……!何なんだっ………いった―――――」
ドクン
「(……っ…身体、熱ぃ……さっ…き…も……キてたのに……!)」
異常なまでの身体の震え。そして、身を焦がす程の火照り。
夜中に起きた時は単なる戦後の高揚と感じていた。――だが、その情欲は確実なる意志を持って政宗の身体を蝕び始めた。
まるで、身体の中に欲の塊が埋め込まれたような感覚。
故意的に呼び起こされる過度の情欲。
まるで、何かが――。
『欲しいんだろう?』
「―――……っ!?…っ誰…だ?」
――――声?
『お前はまだ知らなくていい。…そうだな…言うなら竜とでも言っておこうか……お前と同類の存在だ。』
――――男の、声…。
「……ッHA、よく…わかんねーな……っ。つーか…誰か………んっ…知んねーけど…何の用だ…」
『…ほぅ、このような状態でも悪態はつけるのか。戦国最大の関ヶ原まで生き延びた、その精神力の御陰か。大したものだ。
だが…肉体や精神の強さは、人間の本能である快楽の前には無意味と聞く。お前もそうなのか……【我が器】である以上、確かめねばな。』
「……Ah?」
言っている意味が分からない。
そう思い、目の前の男(と思われる外見の人間)を仰ぎ見る。
中性的な顔立ちに、白で統一された着流しに藍色の羽織を肩から流している。その雰囲気こそ儚げで、声を聞かなければ女と思う者もいるかもしれない。
…まずこんな時間帯に出歩いていることが問題だが(自分は訳有り)
―――人が喘いでるとこ見て何が楽しいんだ、このcrazy野郎。
不穏な雰囲気を察知し、そう悪態こそつけるものの逃げる気力は既に無かった。
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