序章 平和な日常

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 しばらく動きはない。  相手の大男も相当このような戦闘に慣れているのか、しっかり敬と泉実、そしてこちらには向かなかったが、光太までもを観察しているような気がする。  そこで観察が終わったのか、それともこの空気に我慢出来なくなったのか、大男が敬と泉実の方へ、咆哮しながら接近して行く。  1人でいる光太を狙わず、2人の方へ戦闘を仕掛けるのは、2人を背後に回らせれば危険と考えたのか、戦闘に自信があるのか。  接近してきた大男へカウンターを決める為に、泉実は竹刀のようなスタンガンを野球のバットのように振るう。  その慣れた剣さばきは、彼女の事を知らない者が見れば驚いた事だろう。それくらい慣れた手つきだったし、それは正確に大男の鳩尾を捉える角度で振られていた。  風を引き裂く音が響く。だが、その後に聞こえるはずの鈍い音が聞こえてこない。  大男はそれを身を横に反らすだけで軽くよけた。その動作には最低限の動きしか無く、無駄は一切無かった。  そして勿論これをよけたのは、大男が攻撃をする為だ。  大男の鉄球のような拳が轟音をたて、泉実へ振るわれる。  泉実は今さっき、そこそこの重量のあるスタンガンを振ったばかりで、まともに反応できる状態では無い。  大男がスタンガンをかわしてから、攻撃に転ずるまでの時間は1秒にも満たない。  そこへ隣にいる敬が靴の裏で押すように蹴り飛ばす。  それにより、攻撃に転じていた大男はバランスを崩し、その場に倒れる……はずだった、少なくとも普通の蹴りならそれですんでいただろう。だが違った。  ――大男は5メートル程吹っ飛ばされた。  大男は驚きの顔を見せた。  疑問は多々あるだろう。予想外の距離を飛ばされた事や、それだけの攻撃を受けたのにも関わらず、まだこうしてダメージはほとんど無く、驚く事ができる事など。  勿論、敬、光太、泉実の3人はそのカラクリを知っている。  敬の履いている靴は特別製で、靴裏が強力なバネにより飛び出す仕組みになっている。そのバネも特別製で、普通なら、人間の手では、縮める事すら難しい代物である。  これにより、大男を吹っ飛ばす事ができた訳だ。
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