第一章

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   使い込んだ手提げ鞄の中には定期券と財布。朝の陽射しを浴びて、いつものバス停でいつものバスを待つ。 言葉を交わしたことはないけれど、4月からいつも一緒にバスを待つ人達は毎日同じ顔触れで、どこか知り合いのような感覚に陥りはじめる8月末のこと。 もちろん乗車する場所は同じでも下車する場所は点々ばらばら。あの人は何処で何の仕事をしているのだろうか…と空想することが僕の日課だ。 みんなバスを待つ間は携帯電話を覗きこんでいて、一体何をそんなに見ているのだろうかと、ぼぉーとその様子を伺っていると、とりあえず自分も携帯電話を開いてみたくなる。 でも開いてみても、やっぱり大した用はない。だから携帯電話を閉じてポケットにしまった。  
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