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井上が昨日捕まえた少年を連れてくる間、とある一室に数人の男達と手首を縛られた一人の青年がいた。
「なあ、なんで俺は縛られてんだよ?あんたらに何かしたか?縛られる理由が分かんないんだが…」
不満そうな顔をしながら縛られて自由の効かない自分の手首を見下ろしながら青年は抗議する。
「あ゙ぁ?てめぇが疑われてるから縛ってるに決まってんだろ」
「だからぁ、何で俺は疑われてんの?何にもしてねぇだろうが」
常人ならば怯えきって反論どころか身動きすら出来ないだろう殺気を放つ美丈夫・土方歳三に、その殺気を気に留める様子もなく淡々と意見を述べる青年。その態度が気に入らなかったのか土方の額に青筋が増えていく。
部屋の中が殺気でピリピリしているところに、井上の声が仲裁に入る。その部屋にいた者の視線が一斉に声のした襖へ向けられた。
「失礼するよ。さぁ、入って。」
襖を開けて入ってきた井上に促されて入ってきた人物に青年と井上以外の全ての者が息を飲んで見惚れた。
井上に連れられてきたのは、儚い印象を抱かせる中性的な顔立ちの少女だった。
腰まである真っ白い髪、その髪からは白磁の肌が覗く。長めの前髪に隠れるように覗く右目は見る角度によっては金に見えそうな茶色、左目は布で隠されていた。
「おはよう、白夜叉」
「ぉはよ……」
鈴を転がしたような澄んだ声が響き、暫く見惚れていたがハッと意識を取り戻す面々。
「「「女!?」」」
真っ先にすっとんきょうな声を上げたのは、二番組組長 永倉新八と八番組組長 藤堂平助と十番組組長 原田左之助。
三人の反応に小さく眉間に皺を寄せた少女。
そして三人の反応に同意するように広がる困惑。
襖を閉め、その近くに座っているのは紛れもなく女。しかし、昨日捕えたのは男。それもどう考えても同一人物とは思えない程の殺気を放っていた。
だが、彼女の着ている着物は男物で、昨日捕えた少年の着ていた物と同じ──。
それは自分達の目の前に居る少女が自分達が捕えた少年と同一人物であることを示していた──。
そして何より、青年はこの少女を“白夜叉”と呼んだ。
それは彼女が少し前に巷で噂されていた人斬りであることを意味し自分達の敵であることを示していた。
部屋にいた者達が困惑している様子を見て、青年は腹を抱えて笑い転げている。
混乱の元である少女は自分の手首を縛っている縄とにらめっこをしていた。
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