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井上が男だと思っていた少女を連れてきてから暫くして──
「てめぇの名はなんだ」
「………」
「何故男の格好なんざしてやがる」
「………」
「てめぇは本当に人斬りか」
「………」
「……てめぇ……」
額一杯に青筋を浮かべ口許を引き吊らせている土方。
終始無視を決め込みずっと縄とにらめっこをしている少女。
そのやり取りを見て笑いこけている青年と新撰組一番組組長の沖田総司。
そして其処にいる誰もが少女の態度に驚きを隠せなかった。
明らかに目の前に居るのは"子供"だ。だがその子供は自分達でさえも"鬼"と呼び恐れるほどの人物がどれだけ殺気立っても丸で態度が変わることはなかった。
彼女に土方の存在が映っていないかのように──
その声が届いていないかのように──
当の本人である少女は自分の手首の自由を奪うこの縄をどうすれば綺麗に解けるかを考えていた。
「クククッ…陽桜(ヨウ)」
余程二人のやり取りが面白かったのか、笑いを堪えながら青年は少女の真名を呼んだ。
突然発せられた"陽桜"という名が少女を指していることに気付くのに然程時間は掛からなかった。一方、突然本名で呼ばれた少女は縄とのにらめっこを止め、きょとんとした顔で青年を見つめ小首を傾げた。
「なに考えてたんだ?」
「この縄の外し方」
その言葉を聞いて新撰組の幹部達に緊張が走る。
周りの放つ空気が更に鋭く変わったことに気付いて尚、平然としている二人。
「どうやったら綺麗に解けるかなって」
「そうか。それを考えるのはいいが、少しはあの人達の相手もしてやれよ?般若みてぇなのも居るしよ」
「へ?」
ニヤニヤ笑いながら少女に忠告する青年の言葉できょとんとしながらも漸く周りに視線を巡らせる少女。やっと此方の質問に答える気になったかと思っていると、少女はまた視線を手首に戻し
「興味ない」
そう一言だけ呟いた。
それを聞いて更に青筋を増やし眉間に深く皺を刻む土方。
再び笑い出した青年と沖田。
「クククッ…陽桜……そろそろ答えてやれよ…クハハッ」
「どうでもいい……」
自分の置かれている状況を理解した上でか否か答えることを拒否する少女。
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