居待月

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「なっちゃん、お松のことは誰が悪いわけじゃない。…それでもやるの? 」  夕日で朱色に染まった顔を、隣に立つナズナに向ける松原。 「やる。私の自己満足の為に付き合って」 ナズナは下駄を脱ぎながら返す。 「……わかった。やるからには手は抜かないよ? 」 「うん。でも法度に引っ掛からないように私闘じゃなくてあくまで稽古」 「ものは言いようだね」 「うん」  二人はただ買い物に出た訳ではなかった。  数日前、ナズナは松原に言った。 “私を仇としてやって” と。 松原はそれに対し一度は拒否したが、何らかのやり取りの末、刀ではなく柔術でやり合うことになった。 刀ではなくなったにしろ、先の世の柔道とは違い、柔術は人を殺す武術である。 そして松原は柔術を最も得意としていて、ナズナとはいうと全くの素人だ。  どちらが勝つかは歴然なのだが。  二人は草の上に裸足で立ち、 向き合った―――― .
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