言えなかった言葉

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  「智美なら……東京に行ってもやっていけるよ」  不器用ながらも精一杯の笑顔を取り繕う。智美の『夢』を『目標』に変える時が来たのだ。修平がその邪魔をする訳にはいかない。  ただの幼馴染という二人の関係を変える一言を、修平は込み上げてきた弱音と共に飲み込んだ。        桜の花が舞う。一年で一番めでたくて、一年で一番寂しい季節。  卒業式の終了は太陽が天頂に差し掛かる少し前だった。それは修平と智美が時間を共有できる限界が近い事を意味する。市内へのバスが二時間に一本しかない為、一本乗り過ごすだけでかなりの時間を食うのだ。  あの夏祭りから半年。修平は努めて明るく振舞った。そうしていなければ心が折れてしまいそうだったからだ。普通に笑えていたかは甚だ疑問だが、智美もそんな修平の気持ちを察してか、それを指摘したりしなかった。  三年間過ごした学び舎からバスの停留所へ向かうには、この町を横断しなければいけない。小さな町だが、徒歩で向かうには不便である。  智美と修平はそれでも歩いた。  垣根の上で欠伸を隠そうともしない野良猫が、二人に不躾な視線を送る。と言っても野良猫なのだから無作法なのは当たり前なのだが……  十字路をそのまま直進する。右に曲がれば修平と智美の家があるのだが、智美は停留所で待っているだけでいい。大きな荷物は郵便で送り、手荷物は智美の両親が車でバス停まで届ける手筈になっていた。  二人の顔を見かける度に声を掛けてくれる魚屋と八百屋のおじさんに、肉屋のおばさん。そんな面々が店を構える商店街を抜ければ、後は神社を通り過ぎるだけで目的地に到着。  利用客の少ない停留所は、今日に限ってはその汚名をすすいでいた。  数十分後、低い唸り声を上げてバスが口を開いた。各々が自分のタイミングで乗り込んでいく中、智美は修平と向かい合っていた。 「それじゃ……行くね」 「……ああ」  
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