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――僕は小さい頃から『忘れる』ということを知らなかった。
僕は、どんなにささいなことでも見たこと聞いたこと、さらに感じたこと全てが記憶となって、何でも昨日のことのように簡単に思い出すことができた。
例えば、道ですれ違っただけの人。
そんな何の関係もない赤の他人でも、「あ、この人、前もここを黒いジャージ着て通ってたな」なんて子供のときから自然と思っていたものだ。
その人の顔だって、今でも簡単に思い出せる。
世間の人が言う、天才ってヤツなのだろうか。
しかし、そんな誰もが口にしたことのあるような、ありきたりの肩書きが僕の運命を狂わせたのは間違いない。
「そんなのあり得ない」
「ばかばかしい」
何回聞いた言葉だろうか。
そう言われるのにはもう慣れている。
本来なら、「僕はどこにでもいる平凡な男子高校生だった」なんていう始まり方が普通なのだろうが、残念なことに僕は到底普通と呼べる人間ではないのだろう。
『異常』
その言葉が僕にはぴったり合っている。
なんで僕がこんな『異常』な才能を持ったのか。
僕にも分からない。
この世というのは面白いものだ。
何のへんてつもない酒飲みだが頼れるサラリーマンの父と、何のへんてつもないおっちょこちょいなパート主婦の母との間に、僕は生まれた。
母にも父にも何も特別なことはなかった。
何の偶然なのか、普通の家庭に普通じゃない僕は生まれてしまったのだ。
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