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『ラルクアンシエル』 和哉が勤めるお店の名前。 和哉はこの洋菓子店のパティシエだった。 車を裏の従業員用駐車場にとめ、裏口から店の中に入る。 「おはよう!」 同僚の亜希が声をかけてきた。 「どうしたの? 昨日?」 和哉は浮かない顔をした。 「実は……」 和哉が病気のことを話そうとした矢先、昨日電話をかけてきたオーナーが調理室から出てきた。 「お、和哉。おはよう!」 「あ、おはようございます。」 和哉は少し伏し目がちに挨拶を返した。 「なんだか元気ないな?」 「…実はオーナー、 おれ、昨日病院に行ってきたんですが、その…医者が言うことには…“末期ガン”なんだそうです……」 「な!? そんな……」 オーナーは言葉を失った。 「生きれても、あと3ヶ月らしいです。 …おれ、どうしたらいいかわからなくて……」 オーナーは一息ついて、話しだした。 「和哉……、 仕事はいつでも休んでいいからな。 今日はどうだ? 何かやりたいことがあるなら帰ってもいいぞ。」 「いえ、何もやりたいこととかないので、今日はちゃんと働きます。」 「そうか…… 体調悪くなったり、やりたいことが見つかったら、遠慮なく言えよ。」 「はい……」 和哉は力なく返事をすると、更衣室に向かった。 「和哉……」 亜希は和哉の背中を目で追うことくらいしかできなかった――
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