神となるため

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いつかの極東国。 立派な純和風の建物の庭には、うっすらと雪が積もっている。池で錦鯉が飛び跳ねた音がすると、まだ蕾もつけていない桜の木に止まっていた小さな鳥が羽ばたく。日はまだ出たばかりで、空気はツンと冷えている。 「犬神、犬神…」 そんな静かな屋敷の一室で、1人の青年が男を揺すっていた。肩に届く、揺する度にさらさら流れる銀髪に、菫色の瞳。外見からすると年齢は十歳前半だろうが、歳の割に背丈は低めだ。頭には天狗の面が付いている。 色白の綺麗な手が、男の肩から離れる。 「……いい加減」 和服から出た色白の足をすっと引く。 「起きろ!」 その足が男の頭を蹴り挙げる。裸足だったにも関わらず、青年はあまり痛みを感じていないようだ。 「ガッ……!」 頭を攻撃された男はそんな声を出した。後頭部付近を思い切り布団の無い畳にぶつけたらしい。 青年は冷めた目でそれを見つめていた。 「天狗っ、てめえ!」 男は飛び起きて天狗と呼んだ青年と対峙する。身長差があるので見上げる形になるが、天狗は怯まない。 「おはようございます、御寝坊様。御気分はいかがですか?」 「最悪だ!あぁ最悪だ、最悪だ!」 「俳句を詠むくらい気分が優れているのか。それは良かった」 「え、あ、ホントだ。じゃねぇよ!!何しやがる!」 「親切に『もぅにんぐこぉる』をしようと思って」 「お前がしたのは『蹴り起こす』だ!」 天狗と男の言い合いはこれからしばらく続く。 天狗と同じ銀髪は短く切られており、深紅の目には涙が浮かんでいる。こちらは二十歳前後のようだ。背丈は年相応か、少し高めだろう。頭には犬耳。 「だいたい、起こすならキスにしろって言ってるだろ?」 「九尾に聴いた。きすは異性に恋愛的好意を示す行動なのだろう?」 「それはD「また変なことを天狗に吹き込もうとしているのかい、犬神?」」 2人が声のした方を向くと、1人の男が開いた襖にもたれかかっていた。 犬神と呼ばれた男は苦虫を口の中いっぱいに頬張ったような顔をし、天狗は目が輝き、頬が少し赤くなった。 「九尾!」 「おはようございます、天狗」 ぽふりと抱きついてきた腰ほどの天狗の頭を撫でながら、九尾はにこりと微笑んだ。それを見ながら、犬神は不機嫌そうに胡座をかいた。 「よぅ、九尾。今朝も早いじゃねぇか」 「お前が遅いんだろう?もう巳の刻なのだから早く支度なさい。さ、天狗。あなたも自室にお戻り」 「ん!」
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