神となるため

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拾われてからは九尾宅からほとんど外へ出たことがない。朝稽古の後、九尾と共に朝餉を作り、犬神を起こし、それから庭の掃除をして昼餉、その後縁側で犬神と昼寝をしてから、1人で裏の竹林を散歩をして、九尾と夕餉の準備、3人で食べた後に犬神と風呂に入り、自室に布団を敷いて寝るのが天狗の日常だ。竹林も敷地内なので、敷地から出たことにはならない。 「引きこもりはいけねぇなあ!」 「引きこもりはいけないね」 「俺らなんて引きこもるとこねぇぜ?」 「僕らなんて引きこもる所が無いよ」 「ご、ごめんなさい」 そこまで強く言われたわけではないが、反射的に謝ってしまう。 「ま、充実してるからいいんじゃねぇか?」 「犬神も見習うべきだよ」 「うっせぇ九尾」 「ま、いつでも来たらいいぜ!」 「まぁ、いつでも来たらいいよ」 「天狗だから飛べんだろ?」 「天狗だから飛べるのだろう?」 天狗は顔をひきつらせると、スススと音を立てずに犬神の後ろに隠れる。 「それも含めてお世話になりたくてね」 双子は一度互いの顔を見る。 「それは風神の仕事だな!」 「それは僕の仕事だね」 「じゃ、俺ァ帰るぜ!」 「じゃあ、雷神は帰るね」 雷神はその場で数回軽く跳び、ふわりと回ると消えていった。残された風神は、天狗の手を引き歩き始める。 「こっちだよ」 不安そうに顔を曇らせる天狗の後ろから、九尾と犬神がついていく。4人の足音はしない。歩く度、風神の髪がなびき、天狗の顔を撫でる。柔らかく、どことなく暖かい。それなのに、触れようとすると指の間をすり抜ける。 「あぁ、鬱陶しいかい?」 何度目か触れようとしていた手を引く。つい、夢中になっていたらしい。小さく首を振って応える。 「風神の髪は綺麗だからね。つい触れたくなるんだよ」 「そう」 いつまでも続くかと思えていた歩みも、ある時ふと止まる。 「この辺かな」 風神が天狗の後ろに回り、肩を抱く。後ろから耳元でそっと呟く言葉は、自然と身体に染み込む。 「始めは煽られるだけになると思う。羽が綺麗に広がったら、風の流れに乗るんだよ。必ず何処かで乗れる時がくるから、無理に風に割り込んじゃ駄目。いいかい?」 頭の中で一度反復して、ゆっくりと頷く。風神は同じように頷き、天狗から一歩距離を置く。そして、思い切り、押した。 「え?」 一瞬の空白。身体が空に浮く。先程までとは違う。身体を支えるものがない。身体は自然の摂理に従う。
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