プロローグ

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 自分には抜け落ちている記憶が1つだけ存在していた。    2年前の10月12日、平日。中学3年の受験対策の授業も終わり、日もまだまだ高く地面を照り焼きついている時間で、当時の自分は自転車を漕いで帰宅途中だったらしい。    何故だか普段とは違う道筋で帰っていた自分は、自宅と学校の中間辺りにある登り坂道が多い住宅街のそこで、大きな事故に巻き込まれてしまった――――みたいのようだ。    みたいのようだと言ったのは、全治3週間の大怪我を負っていた自分は何も、そう何も事故の事を覚えていなかったからである。    同じ中学校に通っていた女子が通りすがった時、自転車は大破していて血を流していた自分を発見したようで。救急車で病院に運ばれ、そして翌日の朝に意識を取り戻して。    事故前後の記憶が無い事を親に伝え、親からこの事実を聞かされたのだ。医者が言うにはそういう事は良くあるようで、脳に異常も見られなかったし一先ず安心した。    事故の原因は当事者である自分が記憶喪失であり、また近隣の聞き込みも現場からも何も詳細が分からなかった為、2年後の現在に至っても不明のまま。    ただ、全身の酷い打撲と自転車の大破具合からいって、大型のトラックにでも轢き逃げされたのだろうという予想はされてはいる。
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