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十二月。雪の降り積もる深夜。山中の家で暮らす一人の青年は、家からそう遠くない山頂に生育する大木に腰掛る。俗に、昔は神木と崇められた樹木だった。
今となっては、この場所への山道も獣道に等しい荒れた通路だ。知る者など山麓の住む高齢者の一端だけだろう。
この場所が、青年の拠り所。
山暮らしと言っても、別荘なんてお金持ちの道楽ではない。そこが家……それも居候という名の借家だ。
数年前に母親は死去。父親に至っては戸籍上は永遠父親だが、青年にとっては忌まわしい記憶の中の残滓でしかない。
つまり、青年は孤独だった。
自分は独りが好きなのだと虚偽を貼り付け、青年は自分の心を偽り続けている。
そんな青年は現在高校二年生。もうじき三年生という時期。
そのような青春を謳歌すべき時代にも関わらず、青年には凡そ友達と呼べる者がいない。灰色の青春というやつだ。
はぁーっと吐いた息に同調して除夜の鐘がまた一つ、街から風に乗って流れてくる。
青年は少しムッとした。
そこからは見えないけれど、下界には灯りが点々と輝いており、人々の喜怒哀楽が蠢いている。これが現実。
高等学校に通っているのも、否が応でも社会という人間の集まりに収まらないといけないからだ。決して自分が望んでいる訳じゃない。
問題児であった青年の身元引き取りを拒む親類の中で、唯一快く青年を引き取ってくれた人達に報いる為。
それだけが青年が生きる糧となっていた。
夢や希望なんて淡い言葉など必要ない。ただ無駄に時間を費やし、死んでいくだけ。
そう青年が想いに耽る中、また一つ……鐘の音が街から届く。
そして、最後の鐘が鳴るとき──
漆黒でゆったりとした外衣に身を包み、不適な笑みを浮かべた仮面で素顔を隠した“それ”は、孤独と絶望という欣幸を携えて青年の前に顕現した。
「……初めまして。死神のハロスと申します」
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