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……そして重要なのは、この賭けでは、署名した者も対価を強制的に支払うこととなる。
──自分の寿命の五分の一を。
五人から集めたその寿命が一人分の命の対価となる為、これで俺の命は救われるらしい。
しかし…………一つだけ手っ取り早い方法がある……。
…………それは、他人の寿命を全て奪うこと。簡単に言えば、人を一人殺せば署名なんて面倒なものを集めなくとも、それだけで延命できるという意味だ。
まぁ、人殺しになるつもりは更々無いんだが。
ここで重要なポイントが一つある。この賭けには、唯一俺にも利点がある。
そもそも賭けというものには、勝敗によって失うモノや得るモノの存在が生じるものだ。
勿論、この賭けに負けた時に失うモノは俺の命。
…………そして、死神が提示した俺が五人の署名を集め、勝利した時に得る唯一の利点。
──どんな願いも一つ、叶えてくれる。
童話なんかの世界ではありきたりの事だけれど、これが実際に叶うとしたら願ってもないチャンスだ。一生に一度あるか無いかのチャンスなんかじゃない、もしかすると人類では最初で最後の好機かもしれない。
ただ流れるだけのこの時間を有意義に過ごせるとしたら…………そう思った俺は気の迷いから賭けを受けてしまったんだ……。
賭けの期間は三百六十五日……一年だ。
俺ははぁーと深い溜め息をこぼすと同時に窓辺から離れる。
「……まっ、一年間で五人ぐらい楽勝だろう」
俺はひとまず賭けの事を頭の隅に追いやると、部屋を出て階段を降りる。
そのとき、まだ新築したばかりの家なのに、リビングの戸が古臭い軋みを立てて開いた。
「あ……お、おはよう。真森(まもり)君……」
戸から顔を半分だけ出して此方を窺っている、この座敷わらしのような長い黒髪女。
この女は城山家の一人娘、城山 千乃(しろやま ちの)。性格は内気で泣き虫だが、しっかり者な一面を持つ。歳は俺の二つ下で、今年有名女子校への入学が決まっている。
数年前に母親を転落事故で亡くして以来、俺はこの城山家で世話になっている。
城山家の人も一家の大黒柱を失っているのにも関わらず、身寄りの無い俺を快く引き取ってくれた恩人だ。俺の私情に巻き込むつもりはない。
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