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それはファンデーションの所為なのか、それとも血の気を失った所為なのか、そこに居る広子は透き通る様に白い顔をしていた。
口に詰め込まれた綿によって生きている時よりもふっくらとした頬には薄いピンクの頬紅にが施されている。
普段の彼女なら似合わないであろう赤い口紅がその形の良い唇を鮮やかに彩り、あのフェロモンを撒き散らす様な獣がなりを潜めたその日の彼女は、それはまるで少女の様に可憐に白く、僕が知っている広子の中では一番に美しい広子だった。
訪れる人の殆ど無い彼女の通夜の席は、その静謐さがとても肌に痛かった。
彼女に比べると随分と小柄な、そして胸を患っている所為なのか、とても年老いて見える彼女のたった一人の親族は、怒りの矛先を見失った何処かの国の兵士の様に、藪睨みに彼女の遺影に目を向けたまま、ただ身動きもせずに黄昏ている。
僕は、作業着のまま訪れた事の非礼を詫び、お決まりのお悔やみを彼女の母親に述べると、マンションの外に沙織を連れ出し、突然の非日常に途方に暮れている沙織に事の詳細を問い正した。
沙織の話しによると広子の死は「自殺」なのか「事故死」なのか、まだ判然としないらしい。
殺人の可能性は認められないと判断され遺体が司法解剖される事はなかったが、彼女の部屋からは大量の麻薬と注〇器が発見された為、彼女の血液検査が行われた。
彼女の死因は致死量を超える麻薬の摂取に依るショック死。
しかしそれは怪訝しい 広子は日常的に薬を使用していた筈だ。
そんな広子が摂取量を間違えるとは考えられない。しかし広子は遺書めいた物を一切遺してはいなかった。
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