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彼女はこれまで、仮令どんな男に、どんな目に遭わされても、自分を包むその肉欲の化け物の中で、肉の監の中で生きて来た。
ずっと堪えて、どこかに道を模索しながら、生きて来た。
そんな彼女に僕は、死を説いた。
彼女が最後に腕に突き立てた、彼女が最後に握った注射器のピストンを押したのは・・・
僕の所為だ・・・
僕は泣きじゃくる沙織を連れて、広子の部屋に戻る為、彼女の肩を抱いて階段を登り始めた。
そう言えば、僕はこの女とも、部屋に来ている何人かの女とも寝た事がある。
最低だ。僕にあの和也なる男を責める資格はない。
しかし僕はあの男が許せない。
沙織は、広子は乱暴された形跡は無く、ベッドの上で眠る様に亡くなっていたと言っていた。
それはつまり、あの男が最後に広子を抱かなかった事を意味する。
抱いていればその形跡は必ず残る。
そうなれば警察がほうってはおかない。
事件は麻薬中毒の女の自殺等ではなく殺人事件として昇華され、あの男は逮捕を免れる事は出来ないだろう。
あの男はその事に土壇場で恐れをなして、広子が文字通り命を懸けて、命懸けで贈ったギフトを 受け取らなかったのだ。
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