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部屋に戻るとそこの絵面は静止画像の様に止まっていて、時計の秒針だけが、そこが現実の世界である事を僅かに覚えているかの様に時を刻んでいた。
視点の定まらぬ藪睨みを続ける広子の母親に了解を得ると、僕は広子が寝ている部屋に、広子に最後の別れを告げる為に入って行った。
広子の顔に掛けられている白い布を取り払うと、さっきよりも間近で広子の顔を見下ろす。
南国の女の様だった褐色の肌、そしてその南国の湿度にも似た、纏わりつく様な湿り気を帯びたあの色気は矢張りもう跡形もなく影を潜め、
そこに居る広子は、
憑き物が落ちたかの如く少女のあどけなさを取り戻し、
水面(みなも)に沈む月の様に、
何処までも、何処までも白く美しく、
僕は、今更、彼女を抱き締めたい衝動に襲われた。
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