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僕は彼女の言葉を思い出した。
あの生々しかった彼女が纏う獣、
あの穢れを帯びた黒いものが、死と云う唯一の転回点を迎えて、彼女の中から綺麗爽然(きれいさっぱり)と消え去っている。
ならば今僕が見下ろしているこの彼女が、憑き物が落ち少女の様に無垢な顔で眠るこの彼女こそが、実は本当の彼女の姿なのだろう。
然(そう)、彼女はきっといつの頃からか、僕が苦手だったあの得体の知れない獣の様な存在(もの)に、
それは何かの悪霊が人に取り憑く様にして取り憑かれてしまったに違いない。
そして自分の中に棲みついてしまったその何かに振り回されながら、傷ついて、傷ついて生きて来たのだ。
自分の意志とは遠く乖離した場所で湧き起こる淫欲に振り回され、
自分の意志とは無関係に、身に纏う肉の檻が淫欲を満たす度に傷つき、自暴自棄に苛まれ、自分を見失い、
剰つさえ自分を下卑た男共の玩具にまで貶めて、
それでも、必死に生きようと足掻き藻掻く広子に僕は、僕はあろう事か、死を説いてしまった。
確かに、死と云う何者にも代理不可能な転回点を迎えて彼女は、彼女を苦しめていた何かから解放され、今、こうして本来の美しい姿を取り戻した。
しかしこれで本当に良かったのか
他に方法はなかったのか
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