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僕は広子の額に自分の額を重ねた。
「こんなに冷たくなって……冷え性やったよな……少し温めたろか……」
僕は暫く広子を抱きしめた。
そして再び冷たくなった広子の唇に顔を寄せると。
広子と最初で最後のキスをした。
広子を造るタンパク質が微生物により分解され始めて、広子の唇はもう僅かな腐臭を帯びている。
しかしそれは彼女が作り物の人形ではなく、明らかに命を宿していた人間であった事を物語っている。
命は…玩具やない……命は玩具やないんやぞ!
やり場の無い憤りと、やり場の無い後悔と、
そしてやり場の無い無情さに打ち拉がれて、
僕は何時までも何時までも広子の傍を離れる事が出来なかった。
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