蒲公英

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「ど、どういう事、話しが違う、それじゃ話が、正夫さんあの時!」 「アホかわれ!あの時はあの時や、今と関係ないわい!担当の弁護士がそない言うてんやったらよ、保釈とか、そんなしょーもない事言うとらんとや、もうサッサと勤めに行ったらええやろがい!このボケ!帰れ!二度と来るなカス!」 亜紀ちゃんが、父の背後に隠れるようにして座っている母へ、それはコマ送りの様に、ゆっくりと視線を向ける。 母はうなだれているばかりで、決して亜紀ちゃんと目を合わせようとはしなかった。 亜紀ちゃんは、まるで芝居を終えた後の操り人形のように、あらぬ方向を向いたまま、無言で、ゆっくりと扉を開き、そのまま僕の前を通り過ぎ、部屋を出て行った。 父は、亜紀ちゃんが開いたままの扉を面倒臭そうに閉めると、ごろりと横になり、セブンスターを口に咥え、あの嫌らしい金無垢のダンヒルでその筒先に火を点けながら言った。 「ええかお前ら、よう覚えとけ、頭は生きてるうちに使うもんじゃ」 僕の中で何かが音を立て壊れて行くのが分った。
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