殺意

3/4
1190人が本棚に入れています
本棚に追加
/146ページ
蜩の鳴き声が痛い程、路地裏と家屋の壁を賑わしていた夕暮れ、学校から戻った僕はテレビの前に座った。 再放送の魔法使いサリーちゃんにチャンネルを合わせテレビを見ていると、突然、抗いようもない絶対的な腕力が僕を襲った。  青天の霹靂だった。 僕の背後から、薄い布団を持った父が襲いかかって来て、布団に覆われた僕の顔と首をグイグイと締め付けてくる。 僕は、いったい自分の身に何が起こっているのか全く理解出来なかった。 驚いて身をくねらせ、必死で抵抗するも、僕を締め上げる力は圧倒的で、十才の僕にはどう足掻(あが)き藻掻(もが) いても、その圧倒的な力をどうすることも出来なかった。 「息が出来ない!」 「苦しい!」 身体中の筋肉が硬直していく。 しかし、どんなにいきんでも、酸素を吸う事が出来ない。 「マハリク マハリタ……になぁれ」 遠くで途切れ途切れにサリーちゃんの声が聞こえる。 「サリーちゃんは何に変身したんだろう」 次第に硬直していた筋肉は酸素を失うと、一転して一気に弛緩を始めた。 ジィリリリーン! しかし次の瞬間、昔の黒電話のあのけたたましいベルの音がした。 そのベルの音と同時に、僕を押さえつけていた圧倒的な力に隙が出来、僕の意識が現実の土を踏む。 僕は、一度思い切り息を吸い込むと、一目散にトイレに走り込み、中から鍵を掛けた。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!