虐待

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四年後、僕は十四歳になっていた。 恵美子おばさんは、妻子ある上司との泥沼の不倫を清算し、会社を辞めて祖父母の住む実家に戻っていた。 「ジィリリリーン」 不意に鳴った電話の受話器を母が取る。 「もしもし、あ、なんや恵美子、どないしたん」 「あ、お姉さん、私、澤田さんと別れたわ」 「そうか、でもそれで良かったやないの、澤田さんと何時まで一緒に居たかてなぁ、あの人家庭を捨てる気はないわけやし」 「分かってる、分かつてるからね、別れたんよ、でもお姉さん、私悔しい、悔しいねん」 「なんでやのん、なんかあったんか」 「私、会社追い出されたわ」 「えっ、あんた会社辞めたんかいな」 「あいつ、裏で専務に手を回したみたいや、突然専務から転勤の話しがあって、ピンときて、だから昨日、辞表出してきたん」 「なんでやのん、あんたが辞める必要なんかないやないの」 「私な、なんにも考えずに妻子ある人とこんな関係になって、日を重ねて行く内に、あいつの奥さんに申し訳ない想いがどんどん募って行って」 「・・・・」 「あいつの奥さん、なんにも知らんねん、何回か会った事あるけど、凄くいい人で、私、あの奥さんをなるべく傷つけたくなくて」 「そうか、まぁ、あんたが自分で決めた事やから、ほんならそうしなさい」 「うん、お姉さんありがとう」 母が電話を切った途端、父は車の鍵を引っさらうようにして外に飛び出していった。
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