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僕・・・・・・いや、俺らがこの文月学園に入学してからもう二度目の春が訪れた。
校舎へと続く坂道の両脇には俺ら・・・・・・いや新入生を迎える為の桜が咲き誇っている。別に花を愛でたりするようなほど雅な人間ではない。
ただ、その眺めには、一瞬、たった一瞬でも目を奪われる。
実際俺の隣には桜に目を奪われている友人が居る。
ただ、俺は前を見据えていた。
俺の頭は今桜のことは全然興味がない。
俺は今、これから起こる出来事を想像していた。
想像なんて低レベルな想像だけど、まあ良いとして、簡単に事情を説明すると、
遅刻だ。
「吉井、野中、遅刻だぞ」
玄関の前でドスのきいた声に呼び止められる。声のした方を見ると、予想通りの人物が立っていた。
浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。
「おっ、鉄じ―――じゃなくて、西村先生か、おはようございます」
「あ、鉄じ―――じゃなくて、西村先生。おはようございます」
軽く頭を下げて挨拶をする。なにせ相手は生活指導の鬼、西村教諭だ。目をつけられるとロクな事がない。
まあ鬼とか呼ばれる程の事だ。
「今、二人とも鉄人って言わなかったか」
「ははっ気のせいですよ」
「ん、そうか?」
とか笑いながら言うと友人は俺、野中蓮の目を見てくる。
その目は語っていた。
(蓮が鉄人って言いかけるから僕も言うところだったよ!!)
(仕方ないだろ明久、寝起きの頭があの巨体を見たら無意識の内に鉄人と判断して言わせようとするんだ。な?仕方ないだろ?)
(どんな頭だよ!?僕よりひどいよ!!)
失敬な。
ちなみに鉄人というのは生徒達だけの西村先生のあだ名で、その由来は先生の趣味であるトライアスロンだ。真冬でも半袖でいる偉業も理由の一つらしいけど。
「それにしても、普通に『おはようございます』じゃないだろうが」
「あ、すいません。えーっと――今日も肌が黒いですね」
「・・・・・・お前には遅刻の謝罪よりも俺の肌の色の方が重要なのか?」
「そっちでしたか。すみません」
「まったくお前というヤツは・・・・・・それに野中、お前もだ」
「手強かったんだ、まさか目覚まし時計の奴が空城の計を仕掛けるとは・・・・・・」
「簡単に説明しろ」
「目覚まし時計に電池が入っていなかった」
替えようとしてそのままわすれてたんだ!!
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