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先程とは打って変わり、真面目な雰囲気になるユッツに背をまっすぐにして向き直るメリル。そんな彼女に、ユッツは少し苦い表情で口を開く。
「あのね。母さんからの伝言なんだけどさ。……勇者、なれだってさ」
「…………。はい?」
目を点にして首を傾げるメリルを見て、ユッツは小さくため息を吐く。当然の反応だろう、とでも言いたげな表情だ。
そして、懐から一枚の黄ばんだ羊皮紙を取り出してはメリルに渡しながら説明を始める。
「あのね。うちの家系には代々、十代半ばを過ぎた子孫を勇者業もしくは勇者の付き人にさせるっていう意味不明な慣わしというか家訓というか、そういうのがあるんだよね。で、メリルはもう十七歳だよね?お母さんは『早いところ済ませましょ。私、嫌いな食べ物は先に食べるタイプなの』って聞かなくてさ……」
「え……っと……それって、つまりは、あれがこれでこうなって、それでもって……」
「うん。つまりは、それがこれでああなってそれでもって今から勇者になって、イケメンの同業者と社内恋愛でもしろって事」
何やら最後の方にいかがわしい事を言ったユッツ。しかし、それはメリルの頭の中のお花畑につむじ風を巻き起こした。
「白馬の王子様と……いや、きっと元大怪盗の……ふ、ふふふふふふ……」
「……メリルさーん?そっちは猛獣いっぱいのサバンナだから帰ってきてねー?あと、その紙しっかり読んどいてよね」
どこかへ飛び立ちそうなメリルに声をかけて現実へ引き戻し、ユッツは「てか理解してくれたのかな……」と呟きながらも、事前に用意した履歴書を一人娘に渡すのであった。
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