序章、

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 なにもない場所だった。  ぼくはいつの間にか、何も無い、果てしない闇のなかに立ち尽くしていた。暗闇に自分の姿だけがぼんやりと浮かび上がっている。  何も聞こえない場所だった。  風や虫の声、聞き慣れていたカラスの声も聞こえない。右も左も前も後ろも暗いというより真っ黒で、思考を無理矢理働かせないと飲み込まれてしまいそうだ。  何も感じない場所だった。  足の裏になんの感触もない。足を動かして、そこに地面があるのかを確かめてみる。進めた右足に引き摺られるように何歩か歩いてみるが、やはりなにも感じない。  地面に足がついていないのか。というか地面なんてものが存在するのだろうか。身体が浮かんでいるような気がする。  浮遊している気がする、というのに、頭はやけに重たく感じる。これがいわゆる矛盾というやつだろうか、重たい。  長い、それも嫌な夢から醒めた後とよく似ている倦怠感が身体を支配していて、ぼくは怠惰に任せて動くのを止めた。  
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