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「っ、や……!」 「大丈夫だよ」  懸命に振り払おうとしても、小さな手に握り締められた右手はぴくりとも動かない。とても華奢で、小さな身体の何処からこれ程までの力が出てくるのか、リラには到底理解し得なかった。  10秒。10秒したら、目の前のこの少年は死んでしまう。リラの真っ白になった脳内からは何の言葉も生まれず、ただ大きく首を振ることしかできない。 「落ち着いて。大丈夫だから」  少年は柔らかく微笑み、リラの身体に身を寄せ、泣いている子供を慰めるような口調でそっと囁いた。 「きみを探してたんだ」 「…………わたし、を?」 「うん」  少年は深く頷くと、リラの右手に額を付け、それから静かに目を閉じた。 「………………」  数秒の時が流れていく。1秒を刻むごとに心臓が大きく跳ね、緊張と不安にリラもきつく目を閉じる。  10秒。  11秒。  12秒。 「……ほら。平気でしょう?」  少年が顔を上げて、白い歯を覗かせて悪戯っぽく笑った。リラはそろりと瞼を開き、視線を下げ、自分の手と少年の顔を交互に見る。 「なんで、どうして平気なの? もしかして呪いなんて誰かが作った嘘で、」 「いいや。残念だけど多分絶対、きみの呪いは本物だよ? 『黒い魔女』なんだから。ぼく以外の誰かに触ってみればわかると思う、けど」  少年は再び子供のような表情に戻って、繋いでいた手を離し、それから自分の足へと目を落とす。リラはもう一度自分の手のひらをまじまじと見つめ、また少年に視線を戻した。 「……じゃあ、なんで?」 「…………だって、」  少年は足の裏に刺さったガラスを無造作に引き抜く手を止め、にんまりと歯を見せる。 「だってぼくは、もう死んでる人間だもの」  
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