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      *  リクティは自分が大好きだ。  流れるような金色の髪は傷みなど露知らず、今日も絹さながらの光沢を放っている。連日の訓練で引き締まった肉体、整った輪郭、すっと通った鼻。その中でもマリンブルーの瞳には見た者を虜にしてしまう能力があると、自分では思っている。  大人になったら、沢山の部下を引き連れて街を闊歩するのが密かな夢だったりもする。そして晩年は有り余る富を殆んど平和の為に国に寄付し、静かな田舎に引っ越して、鶏牧場でも経営して、愛する人に看取られながら穏やかに逝きたい。  それなのに、だ。 「寒いいい……っ」  リクティはこの日、高熱を出して倒れた門番の代役を命じられていた。始まるのが例年よりも幾分か早い冬に突入し、赤いマントとマフラーという申し訳程度の防寒具はもはやその仕事を丸投げしている。  冬が始まったばかりだというのに風が冷たすぎる。うっかりしていると鼻水まで凍りそうで、リクティはマフラーに顔を埋めたまま深く息を吐いた。息は直ぐに風に煽られ、水蒸気の残滓を布に残したまま吹き飛ばされていく。寒い、という表現は不適切だ、痛い。  何故こんな仕事を引き受けてしまったのだろうか。鼻を啜りながら後悔の波に落ちる。  リクティの家系は代々城を守る衛兵のひとりであり、衛兵として働くために毎日訓練を積んでいるのだけれど――、門番の助太刀に行った衛兵見習いは今日の午前中の訓練を休める、という餌にまんまと引っ掛かってしまった。所謂自業自得というやつであるのは重々承知しているため、泣き言は一切許してもらえない。  槍を両手で抱いて体重を預けてみても、寒さが和らぐ訳は全く無い。それでも雪の上に倒れ込んで、そのまま死んでしまうよりはマシだ、と、リクティは凍り付きそうな脳でそんなことを考えた。 「さっむ……っ」  門の前に立ってから何度この台詞を言ったのか、リクティ自身ももう覚えていなかった。だいたい門番は、門を挟んであちらとこちらにふたり居れば良いじゃないか、なんで4人も必要なんだ、と憤りすら感じてしまう。  こんな状況下で高熱を出すのも納得がいく。むしろ風邪を引かないほうがどうかしている。もっともリクティは生まれてから一度も、風邪など引いたことがないのだけれど。  
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