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彼女、リラが「自分は呪われた子供である」ことを知ったのは、5歳になる誕生日のことだった。誕生日プレゼントとして贈られたのは新しい絵本でもかわいい人形でもなく、手がすっぽり隠れ、指を開閉することが出来ないくらいに大きく型取りされた綿の手袋。大人しくそれをつけていつものようにふかふかのベッドに潜り込んだその日、久し振りに母親が部屋に入ってきた。
よく聞いて、リラ。おやすみのキスを期待したリラが寝たふりをしていることを確認したうえで、母親はリラの横に腰掛け、昔話を読み聞かせるように告白した。
今から200年と少し前、とても恐れられた魔女がいたの。『黒の魔女』って呼ばれていたのだけれど、手のひらで触れただけで人を殺してしまう、恐ろしい魔女だった。
森のなかに住んでいたのだけれど、触っただけで殺されてしまうから、街の人は森に狩猟に出掛けることが出来なくてとても迷惑していたのね。
雨が降り続けて記録的な水害になったことは、リラも知っているかしら。あのとき、「これはあの『黒の魔女』のせいだ」ってことにされたのよ。
国をあげて「魔女狩り」が遂行されたわ。彼女は直ぐに捕らえられて処刑された。でも首が落とされる直前、彼女はひどく落ち着いた声で、微かに笑いながらこう言ったの。
『私はこの国を滅ぼすため、何度でも蘇ってあげる』って。彼女が死んだ後も、雨は数週間止むことはなかったらしいの。
――それから200年後、わたしは貴女を神様から授かった。パパも、ママも、皆とっても喜んだのよ。
でも、生まれた貴女の髪は言い伝えの『黒の魔女』と同じ色をしていて、肌の色は彼女と同じ、真っ白だった。パパとママの間に黒い髪の子なんて生まれる訳が無いのに。
貴女は魔女の生まれ変わりなの。だから、愛してあげられない。
ごめんね。ごめんね、リラ。
母親は涙を溢して何度も謝りながら、リラの髪を撫でた。話の内容はよく判らなかったけれど、頭に触れるその手が暖かくて、リラはもう少しだけ寝たふりをしていようと思った。
これがこの国を統べる国王の長女、リラが覚えている最初の記憶だ。
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