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鬱蒼と葉の生い茂る森の中。日の光が感じられなく、薄暗い。
まだ昼下がりであった。
その森に少女の悲鳴が響いた。
少女は顔を恐怖に歪ませ、震えながら動けないでいた。
目の前には人とは異なる異形のもの。人はこれを【魔族】と呼んだ。
「や……やだ……っ……」
人と魔族の戦争が続き、数えきれない犠牲が出た。この少女もその戦争の犠牲となるのか―。
魔族が少女に手を伸ばそうとしたその時。
ヒュッ
何かが風を切る音が聞こえたと同時に、魔族は倒れていた。見れば首元から血が溢れている。
少女は状況が理解できなかった。その時。
「…今は戦争中だよ。こんなとこで何しているの?」
生い茂った木々のせいで昼間でも日の通らない森の奥から誰かが歩み寄ってくる。少女はまた恐怖をおぼえた。
しかし、見えたのは優しそうな少年であった。
「え……」
「大丈夫?怪我はない?
今は危険だよ。魔族がうじゃうじゃいるからね」
茶色の髪。口元はマスクで隠れて見えないが、優しそうな紅い瞳に少女は吸い込まれそうであった。
「……薬草をとりに……。父が病気だから…」
少女の持っていた籠にはたくさんの薬草が入っていた。
「そうか……。じゃあ俺が送ってぐよ。魔族に襲われると心配だから」
「えっ……悪いです」
「その代わり道に迷っちゃってさ。教えて欲しい場所があるんだ」
「どこですか?」
少年は目を細め、手に持っていたボストンバックを肩に担いだ。
そして言った。
「【戦線学園】―。
たしかこの辺りらしいよね」
少女は目を見開いた。
「…お兄さん……。あそこに入学するの…?」
「あぁ。
魔族と戦うためにね」
そして彼は名乗る。
アーサー・ブラック
血を操る異能の者だと。
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