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「よし、じゃあ杏ちゃん、一足先に教室行ってるね!」
林檎が走り出す。とはいっても小柄で、しかも運動も得意ではない林檎だ。正直遅い。
いやそんな事よりも転ばないかが心配だ。と、杏は片手をくの字に曲げて口角に当てる。
「林檎ー、転ぶなよー!」
「うんー! 大丈きゃ!?」
言ったそばから林檎が転ぶ。地面は舗装されたコンクリートの道で、つまづくような段差も石ころもない。
「言わんこっちゃないよもう」
杏が小走りに林檎の元へ向かう。林檎は転んだ状態からは起き上がり、地面にぺたりと座っている。
「あーあ、制服汚れちゃったよ。ケガはない?」
杏が林檎の制服に付いた土を払う。当の林檎はぼーっとどこか遠くを見つめている。
「……林檎?」
「…………あ!」
何かを思い出したように制服のポケットを探る林檎。そして袋を一つ取り出す。
「あああああ、クッキー粉々になっちゃったー!」
林檎の持っている袋は、クッキーの小袋だった。中身は転んだ衝撃て粉々に砕け、元の形が全くわからなくなっている。きっと黒板消しトラップの事など忘れているだろう。
「ほら、黒板消しトラップ仕掛けるんでしょ。行くよ」
「あ、うん。そうだったね」
クッキーが砕けたショックはどこへやら、林檎は立ち上がるとスカートの土を軽く払う。
「ねえ、杏ちゃん」
「ん?」
「これいる?」
林檎が杏にさっき転んで砕けたクッキーの袋を差し出す。
「えっと……いらない」
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