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騒音。
一体いつから此処に立っていたのかは覚えていない、もしかしたらずぅっと此処に立っていたのかも知れないし、たった今此処に来たばかりかも知れない。
この場所は当然知っている。
スクランブル交差点。
渋谷駅前の複雑に交差された白線のその中央に久山梓は立っていた。
人々の声や音楽、ありとあらゆるノイズが溢れ返っている。
交差点のど真ん中で佇む自分の姿などまるで見えていないかのように人々が前を横を通り過ぎていく。
避けようともせずにサラリーマン風の男が真っ直ぐ向かってきたので一歩退いてそれをかわした。
―いや、実際に見えていないのか。
自分の立っている地面を踏みしめる。
アスファルトの固い感触。
俺は此処に確かに立っているはずだが、他から見たら俺は此処にいないも同然。
―当たり前か。死んでるんだし
ジッと両手を広げて見下ろす。
別に透けてアスファルトが見えるでもなく確かにそこにある。
右手に黒と赤で彩られた数字。
57:32と書かれている。いや、57:31、57:30、29、28…
―タイマーか。
残り時間57分と28秒。
グズグズしている暇はなさそうだ。このタイマーが00:00を差した時。
俺は跡形もなく消えてしまうのだから。
簡単に言うと此処は現実であって現実で無い。
【アンダーグラウンド渋谷】
俺にそれを教えたのは神無月と名乗る青いパーカーを着たちょっと変わった喋り方の少女だった。
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