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鵺は立ち上がり、少年を見下ろす。背丈は圧倒的に勝っている。筋力も特殊能力も。魔力にしては、螺旋の塔から随時供給を受けている。
どこが負けているのだ。
知らなくてはならない。
この人間を殺すために。
使役者は三度命じる。
その化け物を殺せ、と。
「おいてめぇ。いつまで己れを見下してんだよ、クソがッ!」
少年が再び消える。どこから打撃をお見舞いされるのは解っているのだ。
ならば、対抗策を講じるのが当たり前。
『がッ!』
夜空に向けて咆哮する。それは決して無意味ではない。鵺の全身を覆うように震動の膜が形成されていく。
だが、
「それは通じないって証明しただろうが! バカは学びもしないってか!」
弾き飛ばされた。だが、これは予想の範囲内。さきほどの結果から目に見えていたこと。
鵺の目的はこの次にあった。
『……………』
直後、少年の左足の蹴りが炸裂した。鵺の前腹を照準として振り抜かれたその一撃は、さきほどの物よりも更に重たいものだった筈なのに。
「ハァン。――猿の特性か」
鵺はびくともせずに突っ立っているだけ。だけど、少年は左足を引き摺るようにして後退した。
左足が複雑骨折していることぐらい、手に取るように解る。それぐらい骨の割れる音が鳴り響いたのだから。
「震動の膜は己れを防ぐためじゃねぇ。己れがどこから攻撃してくるかを知るためだったんな。なるほど、そこで得た予想に従って皮膚を硬化させたわけかよ」
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