第九章 張り裂ける音

47/61
16082人が本棚に入れています
本棚に追加
/550ページ
 鵺は立ち上がり、少年を見下ろす。背丈は圧倒的に勝っている。筋力も特殊能力も。魔力にしては、螺旋の塔から随時供給を受けている。  どこが負けているのだ。  知らなくてはならない。  この人間を殺すために。  使役者は三度命じる。  その化け物を殺せ、と。 「おいてめぇ。いつまで己れを見下してんだよ、クソがッ!」  少年が再び消える。どこから打撃をお見舞いされるのは解っているのだ。  ならば、対抗策を講じるのが当たり前。 『がッ!』  夜空に向けて咆哮する。それは決して無意味ではない。鵺の全身を覆うように震動の膜が形成されていく。  だが、 「それは通じないって証明しただろうが! バカは学びもしないってか!」  弾き飛ばされた。だが、これは予想の範囲内。さきほどの結果から目に見えていたこと。  鵺の目的はこの次にあった。 『……………』  直後、少年の左足の蹴りが炸裂した。鵺の前腹を照準として振り抜かれたその一撃は、さきほどの物よりも更に重たいものだった筈なのに。 「ハァン。――猿の特性か」  鵺はびくともせずに突っ立っているだけ。だけど、少年は左足を引き摺るようにして後退した。  左足が複雑骨折していることぐらい、手に取るように解る。それぐらい骨の割れる音が鳴り響いたのだから。 「震動の膜は己れを防ぐためじゃねぇ。己れがどこから攻撃してくるかを知るためだったんな。なるほど、そこで得た予想に従って皮膚を硬化させたわけかよ」
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!