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教会の庭に降りしきる雨。ベールを伝い、髪の毛の先から滴り落ちる大粒のしずく。
右掌の中に握られたトカレフだけが、ほの暗い曇天の下で怪しい光を放つ。
高価な宝石で華やかに装飾を施された純白のウェディングドレスを返り血で真っ赤に染めたまま、あたしは膝の上で額を撃ち抜かれた男の顔を呆然と眺めていた。
あたしがやったんじゃない。
カチャカチャと云うオートマチックの銃口が自身に向けられる音を遠くに聞きながら、絶望感にその身を置き、ライスシャワーの代わりに降り注ぐ雨粒を全身で受け止めていた。
この時、あたしは何を考えていたんだろう。
本来、自分が仕留めるはずだった男の遺体を目の前にして。
右肩に掘られたビーナスのタトゥー。
もはや逃げ場はない。
目の前の男に愛情はないが、それでもこれはあたしの結婚式。
一発の銃声が雨音を一瞬消し去り、再び静寂は雨音に掻き消された。
あたしは静かに目を閉じ、そして全ての思考を停止させた。
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