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リヨンの街で
あたしはペラルーシュ駅の構内にいた。
ここはフランス第二の工業都市リオンにあって、TGVも停まる大きな街だ。
自慢じゃないけど、あたしは語学も堪能だ。
英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、中国語、韓国語。
そして日本語。訛りだって完璧にコピーしている。
これは画家である養父母が各国を転々としてくれたお蔭。その事だけは感謝している。
駅に着いて、あたしは取り敢えず外国人でも雇ってくれる、求人情報屋を探し求めた。
何としても潜り込まない事には展開するものも発展しようがない。
大きなトランクを前に置き、あたしはカウンター越しに、訝しげな表情でこっちを見る女性の前に座った。
「あの…… 働き口を探しているんですけど」
「働き口? あんた、どこの人? 」
「えっと…… 中国人です」
そう言ってパスポートを提示した。
どうせ西洋人は東洋人なんて区別が付かない。
あたしが中国人と言えば中国人だし、韓国人と言えば韓国人にもなれる。
チャン・チャオミン。
これがこの国に入る時に使ったあたしの名前だ。
それとなく怪しげな発音のフランス語を使っていれば、疑われる心配なんてない。
実際は流暢なフランス語だって話せるんだけど。
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