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それから私達は週に一回は東京のスタジオに行ってテレビ番組に出演した。 地元の番組にはしょっちゅう出ていたし、月に何度かは奈美のラジオ番組に出させてもらっていた CDの印税やテレビの出演料などでそれなりの収入はあったけれど、充は今までと変わらず百貨店で働き、私は行き付けの喫茶店で働き始めている。 充は私が外で働くのには渋っていた様子だったけれど、マンションから近いこと、知り合いである年配の夫婦が経営する喫茶店だということで何とか説き伏せた。 私達二人は仕事に音楽活動、プライベートも充実した時間を過ごしていた ――――― 「これ、使えば?」 4月に入ったばかりの日、百貨店の裏にある従業員用の出入口付近に立って溜め息をつく女性に俺は傘を差し出した 出勤前に望が持って行く様にと押し付けてきた傘で、俺は眩いばかりの太陽の光に目を細めて"必要ない"と告げるも、彼女は絶対に雨が降ると言い張って強引に持たされた物。 けれど俺は、雨のなか帰れずに困っている様子の女性に傘を渡して濡れながらマンションまで全力で走って帰った ………これが俺と望のする初めての喧嘩のきっかけになる事は、まだ知らない
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