1641人が本棚に入れています
本棚に追加
/357ページ
そしてなにか言いたげな誠の口が動く前にあずみが口を開いた。
「二人とも酔ってたの。あれは……事故、そう事故だったの。だから内川くんも気にしないで」
「事故?そんなんじゃない。俺は……」
にっこりと笑ったあずみとは対照的に、誠は怒っているような悲しそうな顔をした。しかしあずみは気を引き締め上司の顔になった。
「事故よ。あたしと内川くんは上司と部下。ただそれだけ。それ以上でも以下でもない」
そう言った途端、誠はとても悲しそうな顔になりあずみは胸がチクンと痛んだ。
しかしそれを表には出さずに「あたしも忘れるから内川くんも忘れて。さあ、仕事に戻って」と厳しく言い、踵を返し振り返らず歩き始めた。
本気なわけないじゃない。
だって彼は自分よりも一回り以上も年下なんだから。
ただ酔った上司をからかっただけ。
今の子の間ではキスは挨拶と同じで、好きでもない子ともノリでするってどこかで聞いた。
だから気にすることない。
あれば『事故』だったんだから……。
あずみは自分にそう言い聞かせながら急ぎ足で戻っていった。
最初のコメントを投稿しよう!