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「ふーっ。疲れた」
風呂上がりの濡れた頭にタオルを巻きつけ、冷えた麦茶を一気に飲み干すのは武村あずみ(たけむらあずみ)、30代後半、独身。
彼氏いない歴すでに四年。
ひとりではなかった時期があったが『ほぼひとり暮らし』を始めてあっという間に15年もたってしまっていた。
「えっと…」
あずみは麦茶をもう一杯飲み干してからソファーへどかっと座り、明日から入ってくるという新入社員の資料を眼鏡の奥から眺めた。
「内川誠(うちかわまこと)と加倉明(かぐらあきら)ね……」
共に20歳の新卒者だ。
履歴書に張ってある写真を見てあずみはふっと笑った。
「20歳か、可愛いな」
自分だって20歳の時はあった。しかしもう随分前のこと。すっかり忘れてしまった……事もない。
あの頃は小さなミスの連続。ミスの度に上司に叱られたが、根気よくは1から教えなおしてくれ、時には庇ってくれたりしてくれた。
そして今、チーフという立場までになり早数年。今は自分が教える立場になっていた。
四月は新入社員に付きっきりになり、一年のうちで一番ストレスが溜まる時期だ。
しかし独り立ちしていく部下がなんとも誇らしく思うのは年を取った証拠なのか?
そんな事を思いつつも、明日の化粧のノリが悪いとイヤだなという乙女心が不意に顔を出し、ドライヤーで髪を乾かし念入りにパックをしてから早めにベッドへ潜り込んだ。
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