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「もしかしてエンジンを消せないってことはないでしょうね?」
あたしは一気に血の気が引いた。岸まであとほんの少しの距離しかない。
「これは実は試作品なんだ。それでエンジンの方はまだいまいちなんだ。それで、これは止まりそうにない。それで岸に着いたらうまい具合に飛び出てくれないかい。」
あたしはとっさに彼女のほうを向いた。彼女はこの急な申し出にすました顔をしていた。
「分かったわ。あたしは大丈夫、でもこのお嬢ちゃんはどうするのここから出れないわよ。飛び降りたら死んじゃうわよ。」
「おれが抱えて連れて行く。そうすれば大丈夫、怪我ひとつさせない。おれを信用しろ。時間がないんだ。」
「じゃ、お嬢ちゃんを任したわ。お嬢ちゃんは逸樹にちゃんとつかまっていてね。逸樹。もし、このお嬢ちゃんにかすり傷つけたら上官に言いつけてクビにさせるから。」
あたしはこの状況が理解できていなかった。とにかくこの人たちに着いて行かなくては、ここに置いて行かれて、船は岸にぶつかってしまい、あたしは怪我をするかもしくは死んでしまうということは理解できた。
「じゃぁ、いっち、に、さんで飛ぶぞ。お嬢ちゃんはこっちに来て。」
さっと手を出してきた。手を握った。
「じゃあ、いっち、に、さん」
船が岸にたどり着くあと20cm手前で飛び出した。飛び出したと同時に船は岸にぶつかって爆発した。
爆発した勢いと、逸樹のジャンプのせいで空を舞った。あたしは手を離さないことだけに集中した。しかしそれも厳しかった。火が自分の近くまで燃え盛っていて、一気に汗をかいた。その汗があたしと逸樹の手を離させた。それからあたしは一気に下に落ちて行った。一瞬、逸樹の顔が見えた。逸樹はまずいっという感じの顔をしていた。
本当に死んでしまうのではないかと思った。その時身体がふっと浮いた。それからゆっくりと降りることができた。無事に地面に降りると、二人がかけてくるのが見えた。
「大丈夫?」
すぐに駆けつけてきた彼女が言った。彼女の髪の毛の半分がちりちりに焦げてしまっていた。
「おい。玲ちゃん。大丈夫に決まってるだろう。今見たじゃないか。彼女はしっかりと力を使って、ゆっくりと降りてきていたじゃないか。それにおれと一緒に居ても丸焦げになっていたぜ。ほらおれの腹を見ろ。」
ぱっと上着をめくって見せたおなかはひどくやけどをしていた。それを見たあたしは吐き気がした。
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