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これからあの人に会う。そう思うと不思議な感じがした。待ち合わせの場所はない。あたしがいる場所に来てくれる。午後4時になると来る。
あと3分。
滑り込みでファーストフード店に入る。
自転車を漕いでいる最中に来たら困る。どうなるのかな。走ってくるのかなあ。そんなことあんな体型ではできないと思うけど。最初に会った時よりも太ったように思った。だんだん太っていっているけれど、年齢は全然変わっていないように思った。
ポテトとお水を注文した。トレーを持ちながら2階に上がった。
2階には人がぽつぽつといた。受験のための参考書を開いている人、コーヒーを飲みながら景色を見ている人、おしゃべりを楽しんでいる女子高生。
あたしは階段のすぐ近くの席に座った。あの人が来たらすぐに見つけられるように。
あと2分。
ポテトを一つ口に入れる。水を少し含める。階段を見つめていた。そうあと少しであの大きな体を揺らしながら、階段を上がってくるはず。
あと1分。
このカウントダウンを腕時計がしたいがために、父の時計を借りてきた。正確に言うと、引き出しにある時計を取ってきた。それは父がなにか大切なことがあるときにしか着けない特別のものだった。
これはあたしにとって大切な出来事。だから、きっとこれを着けても良いはずだという適当な言い訳をつけて持ってきた。でも、一番の原因はこの前見た映画が原因だった。爆弾をセットされた建物の中で主人公は腕時計をつけてカウントダウンをしていたのを真似したかったのだ。
あと20秒。
もう来る。カウントダウンを始める。
5、4、3
もう店には入っただろう。
2、1
どーん。
心の中で派手な登場の音が流れてきた。
しかし、あの人は表れなかった。
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