エリーアイズ王国

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───────────── 視点変更 村枝雄介→リザ・エリーアイズ ───────────── 自分が、こんなに汚い人間だとは知らなかった。 私の窮地を救ってくれた恩人。その恩人を今、私は騙そうとしている。 騙す事を強制された訳では無い。私が、私の意思で騙す事を選んだのだ。 この国の国民の命と、彼の命を天秤に掛けて。 「……そろそろ、湖に道が出来ているはず」 「わかった。……じゃあ、行こうか」 こうするしか無い。こうするしか無い。 頭の中で同じ言葉を延々と反芻しながら、彼を例の湖へと案内する。 仕方がないのだ。私の仕事は国民を守る事。それが第一で、唯一絶対の義務。 国民では無い彼を1人差し出す事で、大勢の国民を守る事が出来る。 私の選択は間違っていない。間違いなんかじゃない。 『いや、俺のせいでもあるし』 『まぁ、とりあえず手当て』 『充分反省しているみたいですし……困ってる様だったので』 『いいかい、リザ。受けた恩は必ず返しなさい。助けられたら、助けてあげなさい。それが、人と人を繋ぐ絆になるからね』 「…………」 彼が助けてくれた時の事が、鮮明に思い出される。と言っても、今日の事なので思い出して当然なのだが……。 見ず知らずの私を困っているみたいだったからと言って助けてくれた彼は、誰がどう見ても良い人だろう。 他人の為に惜しみ無くお金を使える人は、総じて出来た人物だと、これまでの人生の中で学んで来た。 ならば、その彼を騙そうという私は一体何なのだろうか? 自らを乏しめる言葉が湯水の如く湧き出、止まる事を知らない。 しかし、私の足が歩みを止めることは無く、それが更に自己嫌悪へと繋がった。 やがて、黙々と歩き続けた結果、目的の湖へとたどり着く。
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