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「風邪ひくよ。」
降り注ぐ雨が止まった。
声の方に顔を向けると、ベンチに座っている翔子の真後ろに、青い傘をさした銀髪の男が立っていた。
…誰?
男の顔を見つめるが、知り合いじゃ無い事は確かだった。
「大丈夫?」
「…」
…大丈夫…じゃない…よね、…多分。…寒いし。
連日の猛暑が嘘のように、今夜は気温が低かった。
冷たい雨に打たれ、翔子の身体は完全に冷え切っていた。
「とりあえず、傘持ってて。」
男はさしていた傘を翔子の右肩にそっと置くと、持っていたビニール傘を開いた。
そして、翔子の右手が傘の柄を握るのを確認した後、ベンチを回り正面に立った。
男は、少し屈んで翔子の足元に何かを置いた。
「大きいけど、裸足よりはいいでしょ。」
足下には、ビーチサンダル。
「…どうして?」
声が掠れた。
男はフッと笑うと、質問には答えずに言った。
「履ける?」
翔子は頷き、冷たくなった指先をなんとか押し込むと、確かにビーチサンダルは大きかった。
足下に視線を落としていると頭上で声がした。
「ごめんね。こんなんしかなくって。」
見上げると、男は申し訳ない顔をして翔子を見つめている。
貴方が謝る事ないのに…
思わず首を振ると、濡れた髪が顔に絡まる。
男の手がスッと伸び、細い指先が貼り付いた髪の毛をそっと取った。
…綺麗な顔
男の顔を見つめていると、目が合った。
「歩ける?」
翔子は小さく頷いた。
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