XXVI

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胸が張り裂けそうだった。 隼人の目は、私を真っ直ぐに見ている。 「…うん。」 声が震えた。 隼人の目が哀しみを帯びる。 「…そっか。」 隼人を嫌いになった訳じゃなかった。 傷つけたくなかった。 …でも、逃げちゃいけない事だった。 「…う…ん。」 「翔子、うんばっかり。」 隼人がふっと笑ったのが聞こえた。 私は瞬きをして涙を拭う。 隼人の笑顔をちゃんと見たかった。 久しぶりに見る隼人の笑顔だった。 「…ひとつだけ聞いていい?」 「…うん。」 「いつから、…あいつと会ってたの?」 隼人の顔から笑顔が消えていた。 郁斗さんと初めて会った日の事を思い出す。 雨の公園で見た銀色の天使。 「…あの日だよ。」 「あの日?」 「…マンションから飛び出した日。」 「…」 隼人が固まったのが分かった。 それでも私は続けた。 「…雨で…ずぶ濡れだった私を、郁斗さんが助けてくれたの。 …風邪ひくよって…」 「…あの日、…初めて…会ったってこと?」 明らかに隼人は動揺していた。 「…うん。」 私の返事を聞いて、隼人が目を閉じて笑い出した。 「ハハハっ…そっか、ハハ…だから…命の恩人って…」
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