忘れることしか出来ない記憶

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忘れることしか出来ない記憶

「貴方は本当に不思議な人ね」  上品にくすっと笑う少女は顔立ちが整いすぎて人間より人形に近く、地味な服装がかえって似合う。  少女は実際に存在しない架空の存在かもしれないが、確かに言葉だけは覚えている。 「分かってるくせに貴女は知らないふりをする。それはどういう作用が働いてそうなるの?」  それはきっと、世の中が面倒くさいからだ。知りすぎても、知らなさすぎても文句を言われる世の中だから、中途半端が一番だ。必要なときに実力を発揮すればいい。 「貴女は驚いたことに、人には尽くすところがあるのね。本当に徹底した中途半端な行動が出来ない中途半端な貴方」  さっきよりも少女の目が爛々としている。何も言っていないのに話が進むんでいるが、大丈夫なのだろうか?  しかし、酷い言い種だ。本当に中途半端な奴なんて、この世の中で生きれる筈がない。世の中は残酷な事ばかりで、救いようのない事の方が多い。だから、中途半端なやつは人格をねじ曲げ、時に積極的に、時に冷静を装う。それが今の世の中でいう成長ということなのだから。 「なるほどね。では最後に……私は何に見えますか?」  屈託のない笑顔で、少女は問いかける。勿論、問いの答えは決まっている。  人間に近い何か。人々が想像で作り出した産物。まぁ神様と言っても言いかもしれない。 「やっぱり貴方は興味深いわ」  微笑み手を振っている。  次こそは幸せを掴んでね。可愛らしい声は遠ざかっていく少女から聞こえた気がした。  そして、これが夢だと気付く。  この夢はきっと生まれ変わりを果たした人生の内に一度は行われる神様のカウンセリング。  神様、生まれ変わりのせいで幸せは一生続かなかったです。  神様に対する唯一の文句である。
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