忘れることしか出来ない記憶

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 遥か昔の刀が振るわれていた時代。生きるか死ぬかの戦いが当たり前だった頃の過去の記憶。  侍は君主に忠誠を誓い、時には命を軽々と投げ出し、それが本望だと喜び生を真っ当する。そんな時代から夢快は記憶を持ち続ける。  その頃の夢快は小さな村の農村で、畑を耕して農作物を育てることに生き甲斐を感じ、毎日が充実していた。  そして、それとは別に男としての幸せも掴んでいた。  夢快にはそれはうら若き乙女で才色兼備の妻がいた。そのせいか夢快は村一有名で、周囲から妬み恨まれる事もしばしばあるほどだった。  何故、それほどの奥さんを夢快が嫁に貰えたかと言うと、襲われていた彼女を助けたことにある。そこで面識ができ、次第に打ち解けた男女は結婚までに至った。  その頃は漫画なんて存在しないが、昔でも漫画じみた結婚はあるということだ。  それからは夢快にとって幸せの日々だった。今まで何百年と生きてきた記憶を探っても、これほど幸せだったことはない。  しかし、幸せは長く続かなかった。  戦ばかりの時代では多くの人が死ぬため、どうしても国は人が必要だった。そして、それを補うために農村が選ばれた。つまり人手不足という通達で、夢快は無理やり戦へ駆り立てられた。  本来なら農村が戦に出るなんてあり得ない話だが、この戦で負ければ国が滅び、農村はきっと奴隷になる。生きてるが死んでいる状況に置かれるなら戦うしかない。  しかし、農村が急に戦に出陣したとこで実力が伴う訳がなかった。  結果、夢快も含めて農村組は全員が戦死。生きて帰ってきた者はいなかった。せめてもの幸いとしては、今回の戦が相討ちで終わったことだけだ。
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