忘れることしか出来ない記憶

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 火薬の臭いと腐臭が漂う大地には数えきれない死体が転がり、その中に夢快はいた。  仰向けに夢快は倒れ、胸に刺さった数本の矢を掴むも引き抜く力はもうなかった。  死に際、薄れゆく意識の直前で走馬灯を夢快は見た。  彼女の手を取り、ずっと一緒に生きていこうとお互いに幸せを誓った。  しかし、夢快は約束を破って真っ先に死んでしまった。  それだけが心残りで、悔しくて、けどどうしようもなくて、もう死んでいるのか涙も流せない。  生まれ変われたら、もう一度彼女に会いたい。そして、謝りたい。今度は置いていかないと言ってやりたい。  数秒でそこまで考え、夢快はこの世から去った。  そして、記憶だけ残して夢快はまた生まれ変わった。  生まれ変わってから前世の記憶を思い出すのは、歳にして約十歳ごろで思い出せた時は喜びのあまり涙が溢れた。  再び彼女と巡り会える事に、心から神に感謝し、年月が過ぎるのを待ちわびた。  農村の夢快が死に、それから十七年が過ぎ、成人男性まで成長した夢快は早々に彼女に会いにいった。勿論、外見は前の夢快とは違うが性格は一緒だった。説明すれば彼女も分かってくれる。そう信じて疑わなかった。  この時までは、記憶が亡くならない異常とも呼べる現象に感謝した。  また彼女に触れ、話ができる。謝ることができる。とにかく彼女の想いで一杯だった。  しかし、この考えが夢快にトラウマを植え付ける。  夢快と彼女が住んでいた村にたどり着き、周りの視線には目もくれず、死ぬ前に二人一緒に住んでいた家に向かった。あの頃と変わらぬ佇まいに胸を撫で下ろし、中を覗くと彼女はいた。  年相応に頬の肉が落ち、顔には少し皺も出来ていたが彼女は相変わらず綺麗だった。  緊張を隠せぬまま夢快は上ずった声で話しかける。彼女は誰かもわからない男に驚き、夢快を睨み付ける。その目には警戒と恐怖が宿っていた。  夢快は警戒する彼女に、自分は生まれ変わりだと説明する。信じてもらうために夢快しかしらない情報を長い説明の最中に挟む。  すると彼女の顔は真っ青になり、急に立ち上がり、よく研がれた包丁を奥から取りだすと夢快に突きつけた。  包丁を持つ手は震えており、今にも夢快を刺しかねない。
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