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急に何を頼みだすのかと夢快は驚いたが、それとは裏腹に思考は正常に働く。
脳が出した結論が当たり前の話で、同人本を見せるわけがなかった。見ず知らずの他人、それも女性に薄い本を見せた日には、捕まったって文句は言えない。
それとなく理由をつけ断るが、彼女は一向に引く気配がない。そんな男女を伏し目に、何かしらの縺れがあったかとチラチラと野次馬が見ていた。
突然の出来事に頭を悩ませた夢快は、苦し紛れに゛理由を聞いて、見せてもいいと判断したら見せる゛と交渉。
思いもよらぬ提案をしたものだと夢快は思ったが、これはなかなかいいかもしれない。誰だって本を見るのに大した理由などないに決まっている。
後はその提案を彼女が受けてくれるかだったが、心配は杞憂だった。
迷うことなく彼女はあっさりと提案を呑む。
しかし、夢快にはまだ他にも回りたいブースが何ヵ所かあったので、待ってもらうように頼んだのだ。
そして、買い物を終えた今、その話をこれから行うところだ。
場所を会場出入口前から、人気のない場所を選んで移動する。人気を避けるのは万が一の事があり得た場合を考えてのことだ 。
夢快は会場近くの海沿いの海岸を話す場所として選んだ。
夕陽が射し込む海の色はオレンジ色で、海風と波の音が心地よかった。
人のいないここでなら話をするには丁度良いだろう。
二人で夕日を眺め、しばらくして彼女は口を開く。
「私は……前世の記憶があるのかも知れません」
一つの穴から出た音を二つの穴から脳に伝え、夢快の思考は完全に止まった。
波の打ち寄せる音が鳴っている筈だが一切耳に入らない。
夢快の反応を伺いつつ彼女は話し出す。
「実は私、知らないものや場所が、何故か懐かしく思えて仕方ない時があるんです。理由はわかりませんが、懐かしく感じるものはアニメや漫画に関連することばかりなんです。今回だって友人から今日の催しについて話を聞き、懐かしさを感じて、ここに来ただけで同人誌がどういう物なのか知りません」
このことと夢快が先程、購入した本を読ませる繋がりが夢快にはよくわからなかった。
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