0人が本棚に入れています
本棚に追加
夢快が訝しげにしてることに気付いたのか、雨音はすぐさま続きを話し出す。
「私は何故それを知っているか知りたいんです。その為には同人誌が何なのか知る必要があるんです。……だから、協力してください!」
彼女は深々と頭を下げ、夢快の反応を待っている。
正直なところ、まだ意味がわからなかったが、とりあえず夢快から言えるのはこの一言だけだ。
「……とりあえず、病院にいこうか?」
西に沈む夕日の色に染まった雲と空を眺めたまま、面倒なことに巻き込まれものだと溜め息を吐いた。
あれから夢快は同人誌を見せなかった。見せれる類いの物ではないのが最もな理由だが、他にも理由はあった。
何となく胡散臭い気がしたのだ。あんなことを出会ったばかりの赤の他人に話すのが、どうも信じられない。
それに彼女の話を詳しく聞くと、別に同人誌を見せなくても他の方法で良さそうだった。
彼女の言葉をまとめると、知らないのに知っている知識、記憶の中にコミケや同人誌が記憶されており、来たのはいいものの勇気がなく中には入れず、右往左往していた。しかし、同人誌がどういう物なのかどうしても知りたかった彼女は大胆にも見せてもらおうと考え、最初に声をかけたのが夢快だったと言うことだ。
結局、同人誌がどういう物なのか知りたいだけであり、見せる必要は全くない。
夢快は同人誌がどういった内容の本なのか詳しくは説明せず、絵を描くのが好きな人達が思い思いの絵を描いて、それを販売しているとだけ伝えた。
それを聞いた彼女は、同人誌とは漫画とほとんど一緒と言うことですか? と訊ねる。
まぁ、そんなところだ。苦笑したまま答えた夢快を彼女は怪しんでいたが、一応は納得したようだ。
実際は漫画と同人誌では、ある意味で大きく異なるが、それは黙っておくことにした。
最後まで彼女の名前を知ることなく二人は別れた。
今後、縁がなければ出会うこともないだろう。
そう思ったからこそ夢快は名前を聞かないことにしたのだ。
これは夢快の悪い癖だ。どうせ一度限りの出会いなら必要以上に聞いたりしない。人と親密になるのを避けるようにしているのはきっと、死ねない記憶のせいだろう。
最初のコメントを投稿しよう!