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「あれから私、色々と思い出したんです」
長い髪でこちらから目が見えない彼女だが、声から気持ちが昂ってるのがよく分かる。
あれから彼女の方からこれからお話をしませんか? と持ちかけられ、別に断る理由のない夢快は承諾し、駅前通りの喫茶店で話すことになった。
「思い出したとは君の前世の記憶のことか?」
「そうなんです! あれから同人誌について調べると………」
急に顔を真っ赤にして、小さな声で薄い本だと知りましたと夢快に話す。
人が少ないとはいえ喫茶店で、それも大きな声で同人誌! 何て言えば目立つし恥ずかしいのは当たり前だった。
「まぁ……俺が見せなかった理由は分かってくれたとして、話の続きを聞かせてくれ」
は、はいと泣きそうな声で、返事が返ってくる。
「同人誌の販売にはサークルが関与してるのはご存知でしょうが、その中に私が知ってるはずがないサークルなのに知っているサークルが存在しました」
「勘違いじゃないのか? それに知っている根拠でもあるのか?」
胡散臭げに思えてきた夢快は単刀直入で聞くことにする。
「勘違いではありません。私は見ずにそのサークルのマスコットキャラを描くことが出来ました」
彼女が持参していた手提げ鞄からA4の用紙を取りだし、夢快へ見せる。
そこにはタートルネックにスカートを履いた二頭身の猫? が描かれていた。これは有名な某サークルのキャラで、その愛らしさから人気が高い。
絵に自信があったのかどこか得意気な彼女である。
「これの他には?」
「書けるのはそれだけです。後、シナリオも知らないはずなのに断片的に知っていました」
夢快の感想は、何だかパッとしないことに尽きた。それに彼女の前世の記憶とどう繋がっているのか夢快にはさっぱりだった。
「そのサークルについて、何か君との関連性は見つかったのか?」
「いえ、特に……。多分、前世の私がファンなだけだったと考えています」
「それが思い出した前世の記憶なのか?」
「そうですね」
……聞いて損した。わざわざ話したいことがあるなんて言うものだから、何事かと思いきや別に大した事でもなかった。
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